2013年9月17日火曜日

ノキアの没落は他人事ではない?:サムスン電子の「ノキア化現象」の不安

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●韓国上場企業の2013年上期営業利益ランキング


JB Press 2013.09.09(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38638

ノキアの没落は他人事ではない?
サムスン一極集中強まる韓国の不安

 米マイクロソフトによるフィンランド・ノキアの携帯電話機事業買収は、韓国でも大きなニュースとして報じられた。
 サムスン電子の大攻勢でノキアは急速に業績を悪化させたが、韓国でも「ノキアの没落」を他人事ではないと不安視する向きも強まっている。

 「当面、サムスン電子の業績には影響がない」――。
 マイクロソフトによるノキア買収のニュースに、韓国の証券市場はとりあえずこう反応した。


●携帯の雄として世界を席巻したノキアが苦境に陥り、携帯電話機事業をマイクロソフトに売却した〔AFPBB News〕
マイクロソフトがノキアの携帯電話事業を7000億円超で買収

 ニュースが報じられた2013年9月3日、サムスン電子の株価は1%下落したが、翌4日には値を戻し、5日もさらに株価が上昇した。

 スマートフォンは、いまやサムスン電子の最大の収益源だが、マイクロソフト・ノキア連合ができても、すぐには脅威にはならないと見ている。

 2年前、米グーグルが米モトローラの携帯電話機事業を買収した時は、サムスン電子の株価が3万ウォンほど下落したが、今回は、サムスン電子にとって「すぐにネガティブ」という声は、証券市場や関連業界からはほとんど上がらなかった。

■かつての強敵ノキアの転落に韓国が怯える理由

 だが、フィンランドを代表する
 超優良企業があっという間に転落していったこと
に不安の声も出ている。

 ノキアのピークは、アップルが「iPhone(アイフォーン)」を発売した2007年までだった。
 スマホ革命の衝撃の大きさに対応できなかったノキア。
 スマホの可能性に衝撃を受けてすぐ翌年に「ギャラクシー」を発売したサムスン電子。
 この決断の差は、その後の両社の盛衰を決定付けた。

 だからと言って、企業の成功が永遠に続くはずもない。

 「サムスン電子に異変が起きたら韓国経済はどうなるのか」――。
 ノキアの身売りを見て、こんな声が相次いで出てきた。というのも、ノキアとサムスン電子の自国での「突出ぶり」があまりに似ているからだ。

 2007年のフィンランドの全輸出に占めるノキアの比率は20%だった。
 2012年の韓国、全輸出に占めるサムスン電子の比率は21%だったのだ。


 フィンランドの産業界に占めるノキアの地位は圧倒的だった。
 ピーク時には上場会社の時価総額合計の7割をノキア1社で占めた。

 サムスン電子はどうか。
 その比率はノキアほどではないが、21%に達しているのだ。

■韓国でどんどん進む「サムスン電子のノキア化」現象

 マイクロソフトによるノキア買収が発表になる直前の2013年9月2日、韓国取引所が「上場会社上期(1~6月期)業績分析」を発表した。

 上場企業501社の営業利益合計は55兆2561億ウォン(1円=11ウォン)で同9.5%増だった。
 この数字だけを見ると、
 「世界経済が不振だったにもかかわらず韓国企業は善戦した」
と見えなくもない。

 ところが、この数字からサムスン電子1社の実績を引くと、まったく異なる姿が浮かび上がる。

 サムスン電子を除く全上場企業の営業利益合計は、36兆9460億ウォンで前年同期比3.5%のマイナスになる。
 純利益を見ると、サムスン電子を除くと前年同期比14.8%減となってしまう。
 「善戦した」とはまったく異なる姿なのだ。

 サムスン電子は、スマホの販売が好調で上期に18兆3101億ウォンの営業利益をたたき出した。
 前年同期比で何と50.7%増だった。
 ところが、営業利益で
 2位の現代自動車、
 3位のSK、
 4位の起亜自動車、
 5位のポスコ
がすべて前年同期比で営業減益になってしまった(上図参照)。

 全上場企業の営業利益の合計額に占めるサムスン電子の営業利益の比率は前年同期の24%から33%に跳ね上がった。
 純利益に至っては41%にまで達した。

 韓国ではサムスン電子の「ノキア化と言える現象」がどんどん進んでいるのだ。

■「スマホ一本足」への懸念

 サムスン電子のここ数年の大躍進を支えているのは、何と言ってもスマホだ。
 上期の営業利益の70%以上をスマホを手がける事業部門が稼ぎ出した。

 サムスン電子は2013年9月4日、腕時計タイプの携帯情報端末「ギャラクシーギア」を25日から欧州市場などで販売すると発表した。
 1.63インチの画面で通話もメールもできる。
 スマホとタブレット端末に並ぶ戦略商品だ。


●サムスン電子が発表したスマートウォッチ「ギャラクシーギア」〔AFPBB News〕

サムスン電子の業績には今のところ、大きな変化の兆しはない。
 今後も、立て続けに新商品を出し続け、その機動力でライバル企業を圧倒する狙いだろう。

 だが、これまでサムスン電子の独走を許してきた競合他社も2013年秋以降、本格的な反転攻勢準備に入っている。

 「サムスン電子のスマホ一本足」になりつつある韓国経済にとって、「ギャラクシー」は絶対的な砦だ。
 競争力が下がる韓国、そこへサムスン電子に「異変」が起きたら・・・

 ノキアの身売りが大きく報じられた9月4日付の朝刊各紙には世界経済フォーラムが発表した「2013年版世界競争力報告」の記事も同じくらいのスペースを割いて掲載された。

 韓国は前年から6段階下がって25位になってしまった。
 2007年には11位にまで浮上したが、ここ数年どんどん順位を下げて産業界などに衝撃を与えている。

 一方のフィンランドは、前年と同じ3位だった。
 労働市場の効率性や成熟した金融市場など多くの分野でなお大きな課題を抱える韓国にとって、ノキアが不振に陥ったフィンランドよりもサムスン電子に「異変」が起きた場合の深刻度がさらに大きいかもしれない。

 ノキアの身売りは、韓国にとってなんとも気が重いニュースなのだ。

玉置 直司 (たまき・ただし)Tadashi Tamaki:
日本経済新聞記者として長年、企業取材を続けた。ヒューストン支局勤務を経て、ソウル支局長も歴任。主な著書に『韓国はなぜ改革できたのか』『インテルとともに―ゴードン・ムーア 私の履歴書』(取材・構成)、最新刊の『韓国財閥はどこへ行く』など。2011年8月に退社。現在は、韓国在住。LEE&KO法律事務所顧問などとして活動中。




JB Press 2013.09.19(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38710

マイクロソフトのノキア買収が弱者連合でない理由
今やハードが用途を決める時代ではなくなった


●ノキアのスマートフォン(2013年9月、ロンドンの家電量販店にて。写真は筆者撮影、以下同)

 フィンランドのノキア工場を見学したとき、工場の機器がパナソニック製だった。
 ちょっと嬉しかった(自分には全く関係ないけれど)。

 10年前のアメリカ――自動車や電器製品は日本メーカーが市場を席巻したが、ケータイ端末はなぜかノキアがやって来た。

 NOKIAという母音の多い語感が、「Made in Japan?」と、いい意味で勘違いされていた。

■北欧から世界へ。栄枯盛衰のノキア物語

 そのころ、ノキアの売り上げは4年間で3倍に伸びている。

 あれから13年。
 ノキアはマイクソロフトにケータイ部門を売却した。
 その額54.4億ユーロ、日本円で約7180億円(参考:マイクロソフトのリリース、ノキアのリリース)。

 ノキアのケータイ部門の売り上げは、この4年で半分以下になり、2012年度、ついに損失を計上した。


●マイクロソフトのノキア買収スキーム

 マイクロソフトとノキアの関係が近くなったのは、2011年初頭から。
 毎年恒例、マイクロソフトのCES基調講演。
 壇上のスティーブ・バルマーCEOが、「スペシャルゲストがいる」と言って手招きすると、ノキアのスティーブ・イーロップCEOが現れた(彼はマイクソロフト出身のカナダ人だ)。

 彼はスティーブ・ジョブズの如くポケットから何やら取り出し声高に言う。

 「Lumia。Windows Mobile OS を採用したノキアのスマートフォンをアメリカで2011年2月から発売する」

 会場のどよめきはそれほどでもない。
 なぜなら、iPhone発売から3年、Androidフォンからも2年。
 ギークな観客にとって、スマートフォン自体、なんら新しくない。

 結局、Lumiaはいまだにシェア3%以下である(デザインは格好いいのだが・・・iPhone5Cが発表になったときは、ノキアUSAはこんなツイートをしている)。



 ケータイといえば、モトローラとノキアだった。
 モトローラはグーグルに、ノキアはマイクロソフトに買収される。
 先日書いたBOXEEではないが、あれほど輝いていた企業があっという間に市場を失う。




 ノキアはフィーチャーフォンを毎年3億台も販売してる。


●ビジネス: Windows Division + Microsoft Business Division、エンターテイメント: Online Services Division + Entertainment and Devices Division、インフラ: Server and Tools 

 それでも、4年でシェアはほぼ半分に落ちた。
 去年と同じことをしても食っていけない状態。そんなとき、人間どんな決断ができるだろう。

一から出直すのか? このまま惰性で続けるのか?

 ノキアは今回の売却で売り上げが半分になる。
 15年前と同じレベルだ。
 そんな決断だった(イーロップCEOはマイクロソフトに移るわけだが・・・)。

 新興国が勃興し、また衰退する。
 この90年代から続いたノキア物語は、転進の潔さとイノベーションの激しさを感じずにはいられない。

■Xboxとスマートフォンを融合させる

 マイクロソフトのウィンドウズ+法人部門は、この8年、平均すると年間236億ドルもの利益を上げている。
 一方で、Xbox、Bingといったデバイス、インターネット部門は、たったの8億ドルだ。

 そこに、昨年度赤字となったノキアのケータイ部門がやって来る。

 一見、ケータイ市場だけで見ると弱者連合のようだ。
 しかし、もっと視野を拡げると違った見方もできる。

 今やマルチサービス機器に変貌したXbox。
 ネットワーク会員は4000万件を超える。



 Xboxは、アメリカでシェア1位のゲーム機だ。
 それに、ゲームだけでなくドラマや映画の配信もするマルチサービス機器に変貌してる。
 4000万件以上のネットワーク会員もいる。

 マイクロソフトは、今回の買収でスクリーンを手に入れる。
 XboxとLumiaをどんどん融合させるだろうか。
 いや、しないと買収した意味がない。
 いっそLumiaブランドを捨て、スマートフォンもXboxブランドに統一するくらいのほうがいい。

■ハードで何ができるのか構想力が必要

 スマートフォンとゲーム機の組み合わせ。
 ソニーも同じだ。

 しかし、PlayStationとXperia、それにBraviaを思い浮かべて、互いが連携していると感じる人は少ないだろう。
 ブランドも別だし、経営管理も別だ。
 それぞれのブランドで、消費者ができることが限定される。

 これは、ハードがサービスを規定しているからだ。

 いまは、ハードがその用途を決める時代ではない。
 消費者はゲーム機で映画を、スマートフォンでゲームを楽しむ。
 コンテンツやソフトがその使い勝手のいいようにハードを最適化する時代である。

 サービスの利便性を上げ、大衆化する役目を担っていたメーカー。
 その対象となるサービス、コンテンツは、ほぼ網羅してしまった。
 それが、ハードがコモディティー化した要因である。

 そして、イノベーティブなサービスを開発する役目を負っていたソフトメーカーがハード部門を傘下に持ってしまう。
 メーカーがハリウッドスタジオを買収した1990年代と逆である。

 今回のマイクロソフトのノキア買収では、あらためてメーカーやテクノロジーの役割を考えさせられた。


●Windows Phoneについて説明するマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(CES2012にて)

 志村 一隆:Kazutaka Shimura
1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、放送、インターネットの海外動向の研究に従事。 2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号 。
著書には『ネットテレビの衝撃 ―20XX年のテレビビジネス』(東洋経済新報社)、『明日のテレビ~チャンネルが消える日』(朝日新聞出版)などがある。


 ソフト構想力のない企業は消えていく。
 ハードはコモディティー化していく。
 とすると、サムスンは?
 新興国が勃興し、また衰退する。
 サムスンはその新興国になる危険性が大きいということをサムスン自体が憂慮しはじめている、ということだろう。



【「底知らず不況」へ向かう韓国】


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